
風邪をひくと関節痛になる人も多いと思います。
インフルエンザなどになった場合でも関節痛が起こります。
なぜ体調を崩すと関節痛になるのでしょうか?
そのメカニズムをきちんと理解している人は非常に少ないです。
単純に、風邪やインフルエンザのウイルスが原因となって関節痛が生じていると考えている人も少なくありません。
しかし、風邪やインフルエンザなどのウイルスが直接的な原因となって関節痛が生じているわけではありません。
風邪をひくと関節痛が起きるメカニズムをきちんと理解するためには、まずは風邪をひくと身体の中でどのようなことが起こっているのかを知る必要があります。
身体の中で起こっていることがわかると、それが理由となって関節痛が生じていることがわかります。
以下では、なぜ風邪をひくと関節痛になるのか、まずは風邪と発熱の関係について詳しく説明した後で、関節痛が起こる理由について説明していきます。
風邪をひくと発熱する理由

風邪をひくと関節痛が起こる理由は、風邪の原因となっているウイルスが直接的な原因となっているわけではありません。
風邪をひくと関節痛になるのは、ウイルスが原因なのではなく、プロスタグランジンという物質が理由です。
風邪はその原因となるウイルスが私たちの体内で増殖し、喉の痛みや鼻水・発熱・頭痛といった症状を引き起こします。
風邪などのウイルスに感染すると私たち人間が発熱するのは、外敵を排除するために備わった自然の働きです。
発熱することによって、ウイルスの増殖を抑制し、白血球が活性化させ、免疫機能が高くなります。
通常、私たちの体温は脳内の視索前野および視床下部の体温調整中枢によって一定の温度にコントロールされています(これはセットポイントと呼ばれます)。
風邪と同様に、熱中症も体温の上昇が起こりますが、熱中症と風邪では体温が上がる理由が異なることに留意しておくことが大切です。
より専門的に説明すれば、生体内に侵入したウイルスは外因性発熱物質と呼ばれるものです。
この外因性発熱物質が体内に侵入すると、単球・マクロファージ・好中球・血管内皮細胞などの免疫細胞がこれを迎え撃ちます。
こうした免疫応答の一種として発熱物質(パイロジェン)として働くインターロイキン(IL)というタンパク質の一種などが放出されるようになります。
インターロイキンとは、白血球相互間のシグナル物質です。
インターロイキンはウイルスの感染と戦う免疫細胞を賦活しますが、その放出が体温上昇の引き金となります。
ウイルスなどの外因性発熱物質が体内に取り込まれた後、上で説明したような内因性発熱物質が体内で分泌されるのです。
サイトカインは感染が起きたから発熱によって病原体を撃退せよという情報を持っており、その情報を体温調整中枢である視床下部に伝達します。
その後、サイトカインは、血液の流れにとって視床下部深部へ達しますが、そこには血液脳関門と呼ばれる機関があるため、脳内へ侵入することができません。
そのため、視床下部へと情報を伝達するために、サイトカインはプロスタグランジンという物質を作り出します。
内因性発熱物質であるインターロイキンのようなサイトカイン類が脳内の血管の内皮細胞に作用すると、内皮細胞の中でプロスタグランジン合成酵素群が作られ、この酵素群の働きによってプロスタグランジンが生成されます。
このプロスタグランジンは、血液脳関門を通過し、視床下部深部へと情報を伝達することで、視床下部から体内の各器官にウイルスの感染が生じているから体温を上げるように命令するため身体が発熱するようになります。
この視床下部の命令にもとづき、例えば皮膚の血管が収縮したり、汗腺が閉じたりするなど、熱の放散を抑える活動が行われるようになります。
さらに、筋肉を震えさせることによって熱産生をうながします。
風邪を引いたときに震えが起こるのはこのためです。
要するに、風邪をひいたときの震えは、筋肉を震えさせることで熱の産生を促しているのです。
これらの活動が相まって体温が向上し発熱します。
これが風邪をひくと発熱が起こる詳細なメカニズムです。
本来、発熱は身体に備わった自然的な防御反応であり、通常の発熱であれば熱を下げない方が身体の免疫は高くなります。
しかし、高温状態が続くことで体力が消耗したり、ひどい関節痛が起こったりといった症状が現れて辛い場合には、医薬品によって体温を下げるという対応がとられます。
発熱のメカニズムを逆手にとって言えば、プロスタグランジンの生成を抑制することで発熱という現象が生じにくくなります。
そのため、医薬品にはこのプロスタグランジンの生成を抑制する成分が含まれており、プロスタグランジンの生成が抑制されることで発熱や痛みといった症状が緩和されます。
解熱鎮痛成分が含まれている医薬品はシクロオキシゲナーゼの作用を阻害することでプロスタグランジンの生成を抑制して体温の上昇を抑えます。
ただし、プロスタグランジンは胃粘膜保護や胃液分泌抑制の働きがあるので、解熱鎮痛成分を使用すると、胃の障害が起こりやすくなるため注意が必要です。
プロスタグランジンを抑制する医薬品にはその他にも副作用があるため用法用量を守って正しく服用することが大切です。
風邪をひくと関節痛になる理由

関節は、骨や靭帯、筋肉などによって結びついています。骨と骨が擦り合わないように、骨と骨の間は関節包と呼ばれる丈夫な筋に包まれています。
これは靭帯ともよばれ、関節を構成している2つの骨が離れないように結びつける役割を果たしています。
関節包の内部は軟骨や滑膜で守られています。
関節包のさらに内側には関節腔があります。
この関節腔の内部は骨液(関節液)で満たされていますが、この骨液は血漿(血液から血球を取り除いた残りの液体)の透析濾過液に滑膜細胞の分泌液が加わったものです。
関節包を内側から支えている滑膜と関節腔の間には膜がありません。
そのため、物質を妨げる防壁となる膜を欠いているので、関節包内の組織液と骨液によってバランスが保たれています。
しかし、風邪をひいたり、関節部分で炎症が生じると、プロスタグランジンが骨液の中に侵入するようになります。
プロスタグランジンは、関節包内の組織液内の侵害受容器と呼ばれる痛みを感じる機関を刺激するため、痛みを生じさせるようになります。
これが、風邪をひくことによって関節痛が生じるメカニズムです。
要約して言えば、体内でプロスタグランジンが生成されたことが理由となって、体の各関節に痛み(関節痛)が生じるようになるのです。